@fuji3zpg

歴史と防災-その2 震災シミュレーション小説-

巨大地震が起こったら、どういうことが起こるのか、震災シミュレーション小説で疑似体験しておく


東京直下型地震や東海地震などの巨大地震が起こった場合、実際、どういうことが起こるのだろうか。
興味のある人は、震災シミュレーション小説を読んでみるとよいと思う。震災シミュレーション小説は、各分野の専門家が分析し、想定したリスクを、小説家が物語の中に埋め込む形で作らている。歴史小説が、歴史学を前提に、物語化しているのに似ている。


震災の流れを理解し、その時が来たらどうすべきか考える


こういった小説を読んでおくと、震災発生から被害の拡大、収束へのシナリオが大体理解できると思う。その中で、防災グッズの使い方も学べる。
その1でも述べたが、実際にどうすべきかは人によって異なる。たとえば、マリナーズのイチロー選手と寝たきりのおじいさんに対するアドバイスは違うだろう。
どこに住んでいるか、どこで働いているか、そして、その時どこにいるか考え出したら、現実的なパターンでも多数あることが分かる。したがって、主要ないく つかの状況を「想定」して、自分や家族のための事前計画と準備をしておくことが望ましい。大災害の場合は特に、初期の混乱期は自力で生き抜くことを前提に 考えたほうがよいと思う。


数日前、私は成美堂出版編集部 『地図で読む東日本大震災―大震災・福島原発・災害予測 (SEIBIDO MOOK 今がわかる時代がわかる日本地図別冊)』という本を買った。


パー ト1が「大地震」、パート2が「福島原発」、パート3が「災害予測」となっている。「地図で読む」とある通り、どの地域がどの程度やられたかよく分か る。よくぞ、これだけまとめてくれたものだ。時間があるときに、この手の本を読んで、津波を伴う海溝型地震と原発事故対策の参考にしてもらいたい。


内陸部の震度が高い地域、関東平野の内陸部の液状化被害、農業用溜池の決壊によって死者行方不明者が出ていることなど、割と気づきにくい情報も載っている。

考慮すべきリスク


住んでいる場所にもよるが、日本に住んでいる以上、考えていくべき自然災害のリスクとして、その1で、「一般的に、自然災害としては、火山噴火、洪水、地震、津波、液状化が考えられる。」と述べた。これらのリスクを念頭に、震災シミュレーション小説の紹介をしていきたい。


震災シミュレーション小説の紹介


私が読んだ中で、参考になりそうな震災シミュレーション小説を挙げておくので、興味のある方はご覧いただきたい。読む順番も上から下へ読むとよいと思う。
小説を読んだあとで、ナツメ社などから出ている一般向けの火山噴火、地震(津波)、洪水(気象)などに関する本を読んでおくと、原理的にも現象が理解できる。


私が読んだ中で、『巨大地震―地域別・震源、規模、被害予測 (ニュートンムック Newton別冊)』がよかった。


あと、NHK高校講座の「地学」も参考になる。
http://www.nhk.or.jp/kokokoza/


震災シミュレーション小説-直下型地震-


福井晴敏 『平成関東大震災--いつか来るとは知っていたが今日来るとは思わなかった』


東京湾北部で直下型地震が起こる話である。主人公は普通のサラリーマン(妻と2人の子どもがいる)で、新宿にある都庁のエレベータで被災し、墨田区の自宅ま で徒歩で帰宅する姿を描いている。直下型地震と地震によって引き起こされる火災、特に木造密集市街地(木密)の危険が描かれている。隅田川以東は液状化についても言及されている。

小説の中に、地震の基本的な知識から震災時の行政機構の話、防災グッズの紹介まで、読者に役立つ情報がコンパクトにまとめられている。もし時間のない人は、この1冊だけでも読んでおくとよいと思う。


この本の副題に注目していただきたい。「いつか来るとは知っていたが今日来るとは思わなかった」である。これ以上、的確な表現を私は知らない。


「キー、カシャーン、キー、カシャーン、・・・」


大揺れの六本木ヒルズの40階で、あの金属音を聞きながら、まさに私が思ったことだった。


あの時死んでいたら、私は無念に思っただろう。事、未だ成らず。もう少し時間がほしかったという思いとともに。
あの震災で亡くなった人々も同じような思いであったのではないか。無念にも突然この世を去ることになった。自分たちの死を無駄にしない様にしてほしい、そ う願っているように思う。本来、当サイトで震災の話を書くつもりはなかったが、こうして書いているのは彼らに対する私なりの供物なのである(また、将来世代への警鐘でもある)。


高嶋 哲夫 『M8』


M(マグニチュード)8の地震が首都直下で起こる話。
阪神淡路大震災の被災者である主人公が地震研究者になり、コンピュータシミュレーションを使って、首都直下地震を予測する。そして、巨大地震が東京を襲う。

直撃は免れたものの、私は阪神淡路大震災も京都で経験している(京都は震度5強だった)。という訳なので、直下型地震の揺れ方は知っている(というか、思い知らされた)。その経験がまざまざと蘇っている迫真のストーリーだった。
他の震災小説でも同様だが、効率性と安全性という原則的に相反する方向性のバランスをいかにとるかという難しい問題が重要なテーマになっている。その答えと対策が次の大災害被害の規模に反映される。


震災シミュレーション小説-洪水-


高嶋 哲夫 『東京大洪水』


台風は年中行事のようにやってきては被害を与える。だが、たいていは家で寝ていたら、通りすぎていく。しかし、想定を越えた巨大台風が起こった場合どうなるか、当作品ではそれをシミュレートしている。具体的には、江東区を含む荒川低地水没の危機を描いている。

近 年、隅田川は氾濫していない。私は堤防の技術的なことは知らないが、あの薄く、儚気な堤防を見て、本当に大丈夫なのかと思ったのは私だけではないだろう (ちなみに、荒川の堤防は立派に見える)。実際、江東区が出している洪水ハザードマップを見ると戦慄が走る。


荒川低地に限らず、低地に住んでいる人は次の台風シーズンまでには読み、安全な退路を確保してもらいたい。


震災シミュレーション小説-海溝型地震:東海地震-


高嶋 哲夫 『TSUNAMI』


またもや、高嶋氏の本。テーマはズバリ津波。
東海地震が発生し、地震と津波で東海地方が壊滅する様子が描かれている。
そんな中、浜岡原発で事故が発生する。

あの震災を経験してから読んだので、正直うなった。地域が違うだけで、東日本大震災で起こった要素が次々に出てくる。この本は2005年出版なので、むろん、東日本大震災以前に書かれている。
東海地震は海溝型地震なので、繰り返し起こる。次の東海地震に備える意味でも読んでおきたい。だが、かなり衝撃的なシーンもあるので、要注意。


震災シミュレーション小説-火山噴火-


石黒 耀 『死都日本』


火山噴火というと、雲仙普賢岳の火砕流や昨年にヨーロッパで空の便がストップしたことが記憶にあると思う。最近では、チリでの噴火が報道されている。その様子は当作品の描写を見ているようだった。
数千年のサイクルで起こる巨大噴火(破局的噴火)が日本で起こったら、どうなるか、我々はなかなかイメージできない。しかし、東日本大震災では、千年に一度といわれる規模の津波が起こった(貞観地震)。こういった稀ではあるが、起こったら致命的な現象を無視してよいのか考えるよい機会になると思う。

この本は、火山と神話の話をまじえて書かれていて興味深い。火山がもたらす脅威は深刻だが、一方ではその恵みは長く、大きい。
おそるべき火砕流の様子はもの凄いが、火山灰のボディーブロー的効果は見逃せない。火山灰は紙や木の灰のように見えるが実際は鉱物が砕けたもので、肺に入 ると、肺の病気を引き起こす。水に濡れると固まるので、火山灰が屋根に積もってから雨が降ると、建物が重さで潰れることもある。そして、コンピュータの中に入ると、故障の原因になるという非常に厄介なものらしい。
破局的噴火は発生頻度は低いだろうが、影響が深刻すぎる。


ここまで行かなくても、富士山は約300年前(宝永年間)に噴火し、都内まで火山灰が降っている。したがって、時期は不明だが、関東平野に火山灰が降ることは過去の事例からいって、あり得る話である。


本を読む前に


個人差はあると思うが、上記の本は読中、読後、かなりこわいと思う。


大震災の心の傷が癒えていない人、精神的に不安定な人や時は読書は控えたほうがよいかもしれない。まあ、余計なお世話かもしれないが。。。


はじめて経験することは「かつてない」ことと思いがちだが、自国や他国の過去を調べてみると、似たことはそれなりにある。ゆえに、時期は不明でも起きることが分かっており、かつ、秒殺されるおそれがあるものは労力をかけて調べる価値はあると私は思う。
「あってはならないことは考えてはならない」という発想が「あってしまうと、対応が後手に回り、泥縄式に被害が拡大する」という我が国の負けパターンを、次こそは踏まないようにしたいものだ。


次というのは首都直下型地震と東海地震のことだ。
日本の国土の構造上、いつか「そのとき」は来るのである。そのとき、あなたは何をしているだろうか。


(終)

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